「なんでここに来るかね大将…」
雨の日の非番。部屋でのんびりとしていたハボックを突然訪れたのは、弟のように可愛がっている子供だった。アルフォンスを宿に置いてきたというエドワードを不審に思いながらも部屋に上げようとすると、その手がひどく熱いことに気が付いた。
額に手をあてると、予想した通りで。そのまま抱え上げてベッドに押し込んで、今に至る。
「ごめん、やっぱり迷惑だったよな」
濡らしたタオルを額にのせてやると、珍しく殊勝にエドワードが言った。らしくない台詞にハボックは苦笑する。
「ちげーよ、俺は歓迎するさ。大将が俺を頼ってくれたのは嬉しいよ。けど、アルフォンスも大佐もいるだろうに、なんでここを選んだのかねえと」
「…アルには気付かれたくないんだ、あいつは熱なんか出せない体だしさ。アルに心配されると申し訳なくなる。…悪いんだけど、あとで電話入れといてくれないかな、うまいことごまかして」
「へいへい、仰せのままに。大佐はどーする」
「…さっきから、なんで大佐が出てくんの」
「なんでって、あんな人でも保護者みたいなモンだろ。イーストシティに来てることは知ってるんだし、司令部に顔出さなかったら心配してるだろーよ。ああでも、俺ン家にいるとは言いたくねえなあ…。あの人のことだから俺にさんざん厭味言った後、大将を自分ちに連れて帰っちまう」
溜息交じりに言えば、熱で潤んだ目でエドワードが睨みつけてくる。
「俺、大佐んちにはいかねーよ。絶対行きたくない」
「…なんでまた」
「ヤなんだよ。あいつの世話になんてなりたくない」
きっぱりと言い切るエドワードに、もう寝ろよと穏やかに声を掛けた。
天の邪鬼だなあと思う。どうしようもなく意地っ張りな子供だ。
まだ子供だろうに。庇護されるべき存在だろうに。
14も離れた大人に焦がれて、ひたすらに追いつこうともがいて、
立ち止まり方すらわからないままに走り続けている。
なあ大将、焦るなよ。そんなに突っ張るな。
おまえがその掌の大きさに満足できるまで、あの人は何年だって待ち続けるから。
目を閉じたエドワードの蜂蜜色の髪に触れる。小さく唇が開いた。
「…少尉への甘え方ならわかるんだけどな」
「そりゃ光栄だね」
大佐には黙っておいてやるよ。悪戯っぽく告げる。
よろしくな、笑んだ声で返された。
雨の音が響く。晴れる頃には熱も下がるだろうと思った。