「うんそう、上手くいったから。元気でやってる。え?いや違う、リゼンブールはとっくに出たよ。アルはまだあっちにいるけどな、リハビリ中だし。俺はやることがあるから――。うるさいな、秘密。今度会ったら教えてやるよ、当分会わないと思うけど。…はあ?だから秘密だって。あ、そうだ銀時計は返すよ、資格返上の手続きよろしく。あ?うるっさいな、言うべきことは伝えた!じゃあな!」
ふう、と息を吐いてエドワードは電話ボックスを出る。
報告は済んだ。準備も出来た。あとは新天地に乗り込むだけだ。
「あ、やべ忘れてた」
慣れ親しんだトランクから封筒を取り出して、乱暴にポストに突っ込んだ。クッションになるものを詰めたはずだが、ゴトンと重い音がした。割れてなければいいのだけれど。
アルフォンスの体と自らの手足を取り戻したのは3ヶ月前のことだ。以来リゼンブールで衰弱の激しかった弟のリハビリに付き添っていたのだけれど、それを嫌がる弟との押し問答の末、とうとう先日追い出されてしまった。曰く、自分のやりたいことをやりに行け。
長いこと生身の体を持たなかった弟と触れ合うことだって立派にやりたいことなのだけれど。そう伝えれば、これからはいつでもできるでしょ、と笑顔で押し切られた。たくましい弟だ。
それからが忙しかった。確かにやりたいことはあったのだけれど、エドワードはあと1年くらいは故郷でゆっくりと過ごすつもりだったのだ。急ぎセントラルに向かい、かねてより考えていた医学の修得のため、自らの名前と銀時計の特権をフルに使ってセントラル医大への編入を捻じ込んだ。アメストリスの医大は6年制だけれど、一度やると決めたならこれから6年つぎ込むほどの時間的余裕はない。そもそも自分には生体練成の知識なら豊富にあるのだ。理事長との相談という名の論争の結果、3年次編入で妥協点を得た。
ざり、と音を立てて門をくぐる。聳え立つ校舎に感慨はない。あるのは期待と焦燥だけだ。
「うし、行くか!」
前へ進むために。かつての約束を果たすために。
なあ、いつかあんたのもとへ行くよ。今はまだ、同じ空を見上げることしかできないけれど。