うちのビッキーの基本設定。
死神コンビと真紋親子と不老者たちを巻き込んだ、変化の呪いを持つ少女の話。



1.太陽暦449年

「あ、ジーンさん!聞いてよ〜、またローレライさんがいじめるのー」
「あらあら……今のあなたは彼女を知らないのでしょう?」
「知らないよ!でも信じてくれないんだもん」
「ふふ……言わせておけばいいわ。あなたが将来、彼女と出会う運命にあるということなのだから」
「え?」
「忘れられてしまうよりも良いのではないの?あなたはいつも皆に忘れられてしまうって言っていたじゃない」
「うん、そう……。みんないっつもわたしのこと忘れちゃうんだよなあ」
「あなたも大変ね」
「ジーンさんにはよく会うよね?わたしのこと、ちゃんと覚えてる?」
「うふふ……。少なくとも、今のわたしはあなたの存在を認識しているわ」
「うん??」
「わたしの詮索は無しよ。そういえば、あなたが最後に食べ損ねたごちそうはどのパーティのものかしら?」
「えーっとね、炎の運び手さんが、グラスランドを守った記念だよ!」
「あらあら……軍師さんに知られたら大変ねえ……」
「そうなの?」
「黙っていたほうが良いわよ」
「うん、わかった!ありがとうジーンさん!」
「うふふ……」



***



2.太陽暦308年

「っくしゅん!……あれ?」
「ええっ!?……君、誰?」
「わたしはビッキー!あなたは?」
「あ、僕はキリルです。よろしく」
「うーん、おっかしいなあ……。あなたがわたしを守ってくれる人?」
「え?何から?」
「わからないんだけど、守ってもらわないと困ちゃうんだよなあ」
「よくわからないけど、君を守ればいいの?うちのキャラバンには腕が立つ人が多いから、君を匿うことはできると思うけど……」
「ううーん、なんかおかしくって……。多分違うと思う。あなたじゃないみたい」
「そうなの?大丈夫?」
「うん、多分間違えちゃったんだよ!お邪魔して、ごめんね!」
「うん?帰るの?気をつけてね」
「ありがとう!……っくしゅん!」
「……消えちゃった……どういう仕組みなんだろ?」



***



3.太陽暦456年
「……ビッキー。君はこれから僕以外の人のテレポートは禁止だ」
「え、なんでなんで?」
「瞬きの手鏡を持ってるのは僕だけだからな。ビッキーかルックが同行するパーティなら構わないが」
「あ、そっかあ。さっき失敗しちゃったもんね!ごめんなさいー」
「ま、僕は手鏡があるからいいさ。ヘリオンに感謝だな」
「そう、それ、不思議だよねえ。なんでおばあちゃん、手鏡持ってたんだろう?」
「そんなに不思議なことなのか?」
「うーん、前はわたしが持ってたんだよ。それをリーダーさんにあげたらいつのまにか手元に戻ってて……わたしが持ってても仕方ないからまたあげて……。あれ?そのあとどうしたっけ?」
「……まあいいさ。僕は君に関する事柄は何も不思議に思わないことにしている」
「そう?わたしはフェンさん、不思議だなあ。どうしてその右手、いっつもぴりぴりしてるの?」
「……わかるほどピリピリしているか、これ」
「うん、すごく。なんでかなあって思って、こないだみんなで集まったときに聞いてみたんだけど」
「え、ちょっと。皆って誰だ」
「おばあちゃんとジーンさんとルックくん」
「あ、魔法兵団か。その辺りなら問題ない。何て言ってたんだ?」
「おばあちゃんはね、時間がかかるものだから放っときなさいって。ジーンさんは興味深いわねえ、って笑ってただけだよ。ルックくんは、新旧揃って馬鹿だから仕方ないって」
「……妖怪トリオめ……」
「妖怪トリオ?それ伝えておく?」
「やめてくれ。ルックはともかく他二人には」
「うんわかった、ルックくんに伝えてくるね!」
「おい、わざわざ伝えるようなものじゃない…………って、行っちゃったか」



***



4.太陽暦460年

「あ、ルッくん!おはよう!」
「……その変な渾名で呼ぶなって言わなかったっけ」
「そうだっけ?ねえねえ、今日のお昼一緒に食べようよ!レストランで新しいメニューが出るんだって!」
「嫌だよ、なんであんな人込みで食事しなきゃならないのさ」
「じゃあ貰ってくるから外で食べようね!ピクニック!」
「……今日は雨降るよ」
「え、そうなの?困ったなあ……。どこで食べようか?」
「他を誘ってレストランで食べればいいだろ。僕のことは放っておいてくれる」
「うーん……お昼までに考えておくね!」
「人の話を聞きなよ」
「今日は雨かあ。ルッくんはなんでも知ってるねえ」
「何でもは知らない」
「そう?色々知ってるよね」
「……僕は星見の弟子だからね」
「星見って、占いのことでしょ?ルッくん、占いするの?今日の運勢わかる?」
「そういう意味もあるけど、レックナート様の『星見』は違う。宿星の動き、宿星戦争の動きってことだ」
「うん?」
「レックナート様は世界で最も宿星戦争に詳しいってことだよ。まあ、最も多く宿星戦争に参加してるのはあんただろうけどね」
「そうなの?」
「じゃないの。少なくとも今までの記録上はね。今のあんたが何回目なのかは知らないけどさ」
「戦争に参加したのが?わたしも何回目かわからないよ!」
「……あんたが数えてるなんて思ってないよ」
「そう?ねえルッくん、次も会えるよね?」
「……僕の次があんたの次かどうかは知らないけどね」



***



5.太陽暦307年
「ねえねえ!あなた、4番目の星の人?」
「……はあ?」
「今回は石板じゃないんだねえ。プレートの前にいる人に聞いたら、4番目の人はあなただっていうから。テッドくん?」
「……何なんだ、あんた。テッドは俺だけど、何の用だ」
「用?えーっとねえ、石板の人はわたしのことを知ってる場合が多いから来てみたんだけど……わたしのこと、知らない?」
「知らん。俺に構うな」
「そっかあ……。あれ、でもその右手、フェンさんの紋章じゃないの?貰ったの?」
「……誰だよフェンって。あんたが何を言いたいのか知らないが、これは俺のじいちゃんに貰ったモンだ」
「うーん?おじいちゃん?でもそれだよね、えーっと、ソウルイーター!」
「!…………なんで知ってる」
「だからあ、フェンさんのでしょ?教えてもらったもん」
「だから誰だよフェンって」
「知らない?おっかしいなあ……。フェンさん、赤い服着たかっこいい人だよ。親友に貰ったって言ってたもん。解放軍のリーダーさん」
「…………解放軍って、なんのだよ」
「赤月帝国を倒したときのだよ!いつだっけ…?何年か前、えっと……」
「……赤月帝国を倒した?」
「えーっとねえ、いつだっけ……。帝国暦、228年?だよね?覚えてる?」
「覚えてねえよ……何なんだおまえ」
「ビッキーだよ!特技はテレポート!」
「……俺は軍主に呼ばれてて、今から戦闘パーティに入らなきゃならないんだが」
「うん?」
「……戻ってきたら、その話、詳しく聞かせてくれるか」
「うんいいよ!いってらっしゃい!」



***



6.太陽暦237年

「あ、シエラさん!久しぶり〜」
「む?誰じゃおんし」
「シエラさんも忘れちゃったの?みんなわたしのこと忘れちゃうんだもんなあ」
「……ふむ、おんし、瞬きの小娘じゃな。魔女から話には聞いておるわ」
「うん?あ、シエラさんも変わらない人なんだねえ。前のときには気づかなかったよ」
「おんしの言う前がどれくらい先のことかわからんがの。わらわは変わらぬよ」
「うん!あ、ねえねえコウモリになって!白いコウモリさん!」
「それも知っておるのかえ?なかなか親しく付き合っていたようじゃの」
「だってシエラさんよくお墓にいたじゃない、コウモリさんになって。あれ、コウモリって何食べるの?」
「知らぬのう。コウモリのまま食事したことはないからの」
「そっかあ…。ニンジン食べる?お魚は?」
「……何と混同しておるのじゃ」
「この間の船上パーティでもごちそう食べられなかったの……」
「船上?」
「そう、群島諸国の……。あれ、そういえば、ここどこだっけ?」
「天魁星に聞かなかったのかえ?」
「リーダーさん?えーっとお、あ、マウロさん?」
「ブライト家の小僧じゃて。ここはハルモニアの辺境じゃ」



***



7.太陽暦475年
「なんでいないのう……なんで、だって、また会えるって」
「……あなたはよくここで泣いていますね」
「だってルックくんはいつだって石板の前にいるはずなんだもん……」
「言いませんでしたか、ルックは敵ですよ」
「なんで敵なのよう……だって、ルックくんだよ?破壊者なんて、嘘だよう。ルックくん、優しいもん」
「嘘ならば良かったのですがね。あれはルックですよ、僕が言うのだから間違いない」
「……あなた、どうしてルックくんと同じ顔なの?」
「兄ですから」
「お兄ちゃんならルックくん止めてよう……。ほんとに優しいんだよ?世界を滅ぼすなんて、絶対、そんなことしないよ?」
「僕だって止めたいですよ。最大限努力するつもりですが……。成功しても死ぬつもりの彼が、失敗してなお生きるとはあまり思えませんがね」
「なんでそんなこと言うの……」
「僕だって止めたいし、生きていてほしい。生まれはどうあれ、僕らはたった二人の兄弟だ。究極的にあれを理解できるのは僕だけでしょうし、その立場を他に譲るつもりはありません」
「わかんないよ、ルックくんを止めてよ、助けてよ」
「……あなたも行きますか。最終メンバー、彼らはまだ迷っているようですよ。盾の紋章を使える人材は貴重なので、あなたかもう一人のあなたを連れていくつもりのようです」
「……ルックくんに、会えるってこと?」
「会えるでしょうね。もっとも、すぐに倒すことになるでしょうが。一言くらいは会話をする時間はあるかもしれません」
「わたし、行くよ」
「良いのですか?あなたに彼を倒せるのですか?」
「……ルックくんがそうしてほしいなら頑張るよ。きっと、違うけど。ルックくんは止めてくれるよ、戻ってきてくれるよ」
「…………あなたのことは私から推薦しておきましょう。もう一人のあなたはどちらでも良いようですし」
「ありがとう。……あなたの名前は?」
「今更ですね。ササライと申します」



***



8.太陽暦前2年
「っくしゅん!あれ、またやっちゃった?」
「……おまえか。話には聞いている、また失敗したのか。まったくあの軍主は碌な人材を拾ってこないな。建国後はもっとマシな転移術を研究してやる」
「……あれ?」
「何だ。ああ、私に会うのは初めてか。この軍の軍師を務めている、ヒクサ…」
「ルックくん!?」
「……誰だそれは」
「そんなわけないよね、ごめんなさい、わかってます。ササライさんでしょう?」
「……誰だそれは」
「この間のパーティは勝手にいなくなっちゃってごめんなさい。でも、ルックくんが死んじゃったのにお祝いなんてできないよ……」
「……何の話だ」
「そう思いながらシャンパン飲んだらやっぱり跳んじゃって。でも、また会えたんですねササライさん。やっぱりお兄ちゃんだから、ササライさんも変わらない人なんですか?」
「……何の話だ」
「……もしかして、ササライさんも忘れちゃったの?みんな本当に忘れちゃうんだね」
「だから、何の話だ」
「ルックくんのことも覚えてないの?」
「誰なんだそれは」
「駄目だよササライさん、わたしのことは忘れてもいいけど、ルックくんのことは覚えてて!だってお兄ちゃんなんでしょう?たった二人の兄弟なんでしょう?お願いだから、ササライさんはルックくんのこと、覚えててあげてよう……」
「ササライというのは誰のことだ」
「自分の名前も覚えてないの?何もかも忘れちゃったの?……そっかあ。それじゃ、しょうがないのかなあ。でも、じゃあ思い出さなくていいから、これからずっと、ルックくんのこと、覚えておいてね。お願い、ササライさん!」
「…………何が何だか全く理解できないが、わかったことにしておく。だからさっさと仕事に戻れ、暴発娘」