「言っとくけど、説教なら聞かねえかんな!」
「それは説教されるようなことをした覚えがあるという自白かね?」
「違うっ!」



 翌日のイーストシティ、東方司令部執務室。ソファに踏ん反り返って自身の潔白を主張する子供にロイは苦笑する。ちなみに、中尉によって午前いっぱいは他者の執務室へ出入りが禁止されている。全くもって優秀な副官だ。
「君ねえ…。テロリスト側にいたことはまあ、私の命令による潜入捜査だったとでっちあげてやろうじゃないか。だがね、銃を突き付けられて説得を始めるっていうのは一体どういう了見だい?」
「いいだろ結果的に成功したんだから」
「ああいった説得は成功しない場合の方が多い。肝に銘じておきなさい」
「わかったわかった以後気をつけます!それでいいだろ!」
「ふむ。まあこの件はそういうことにしておいてやろう」
「まだあんの…?」
「あの伝言はなんだね。私を馬鹿呼ばわりするとはいい度胸じゃないか」
「あんたのことだなんて書いてないじゃん」
「アルフォンスによれば君が日常的に馬鹿と呼ぶのは私だけだそうだ」
「アルの裏切り者…!」
「弟君を責めるんじゃないよ。君の生きる目的なのだろう?」
 途端にエドワードの顔が真っ赤に染めあがる。口をぱくぱくさせてロイを指さす様は愉快だが、心情的には面白くない。どうして弟の話でここまで赤くなるのかこの豆は。
「あんた、どこから聞いてたんだ…!」
「そうだな、この場合は一部始終と言うべきか?ハボックが爆弾代わりに銃を撃ち鳴らした時からだな」
「全部じゃん!」
「だからそう言っているだろうに」
「うわあサイッアク…!忘れろ!全て忘れろ!」
「何故だね?君の御高説はなかなか興味深かったよ」
「あああああ…」
「私を教育するというくだりは頂けないがね。それと、いつから私は君の共犯者になったのだね?君と共謀して罪を犯した覚えはないが」
「それはっ」
 口ごもるエドワードをにやにやと見詰める。あーとかうーとか唸ったあと、意を決したようにエドワードは言う。
「あんたは俺の罪を知った上で匿ってくれた。これから犯そうとしてる罪に協力してくれてる。
 俺はあんたが何をしようとしてるかなんて知んねーよ。ただ、でっかい野望を持ってることくらいは解ってる」
「…だから?」
「俺には俺の目的がある。何よりも優先すべき目的がある。だからなんでもかんでもあんたにくれてやるわけにはいかないけど。でも、俺が目的を果たしたあと、それでもあんたが望むなら」

「俺を使え。それを許す」

「軍規も上官命令も持ち出さなくていい。あんたがあんたの目的のために俺を必要とするなら迷わず使え。それを許す。どんなことであってもロイ・マスタングのためにエドワード・エルリックが動くことを約束する。それが俺の言う共犯だ」
 …それは。
「…随分と破格の申し出じゃないか」
「借りはでかいからな」
「君に貸した覚えはないがね」
「四の五の言わず受け取りやがれ」
「それではありがたく。いずれ使わせてもらうとしよう」
 くつくつと笑うロイをエドワードは訝しがる。
「…なんだよ」
「いやね、君が元に戻ったあとの話をするなんて初めてだから。そうかそうか、嬉しいよエドワード。どうやら私はアルフォンスの次には大事にしてもらっているようだ」
「なッ…!そーゆーんじゃねえ!つか名前で呼ぶな!」
「どうしてだいエドワード。いいじゃないか今は仕事中でもないし」
「あんたは業務時間内だろうが!そもそもいつだって俺を名前で呼ぶのはナシ!」
 慌てるエドワードに笑いは止まらない。誰にだって呼ばせているくせに、ロイだけは嫌がることが特別扱いを表していることに気が付かないのだろうかこの子供は?
「あーっ、もうあんた最悪!」
「お褒めに与り至極光栄」
「褒めてねえっ!」






 早く駆け昇っておいで。君の居場所はいつだって空けて待っている。