「ハ?じゃあおまえ、元に戻ってから一度も奴らに会ってないのカ?」
「そーだよ悪いか」
「悪いだロ!さんざん世話になったんだろウ、恩をアダで返すナ!」
「るせーな、恩を返す為に今勉強してんだろーが!」
「まず会って報告するのが筋ってモンだロ!お義母さんはおまえをそんな子に育てた覚えはないヨ!」
「あらひどいわ!お義母様の生き様を真似させて頂いただけだというのに!」
「…ツッコミがいないと悲しいからやめないカ?」
「おめーが始めたんだろーよ」





「で、銀時計はどうしたんダ?」
「…中将に郵送した」
 説明を迫る友人達をなんとか宥め、リンをアパートに連れて来た。ボスンと音を立ててエドワードがベッドに寝転がると、リンはその淵に脚を組んで座る。
「郵送ってオマエ…。まあいずれ会いに行くつもりなラ、俺はこれ以上口出しはしないけどナ」
「そうしてくれ」
「本当はおまえにマスタング中将への伝言役を頼みたかったんだガ」
「どうかしたのか?」
「今シンの情勢が悪くてナ。外交の為に、あれ以来定期的に中将とは連絡を取っているンだガ、今は公的に接触するのが危なくテ」
「ふうん…」
「ま、どーにかするサ。とりあえず泊めてクレ、あと飯…」
「…泊めるのはいいけど飯代は払えよ?」
「出世払いでナ」
「それあいつの口癖だぞ」
「詳しいナ?」
「…おまえ、うざ!」
「ハッハッハ、おまえは正直で楽しいナ。別におまえの問題にとやかく言うつもりはないガ、後回しにし続けてると取り返しがつかないことがあるってのはおまえならよくわかるだろウ」
  リンは糸目を僅かに開き、口の端を上げてにやりと笑う。
「……」


 それでも、まだ駄目なのだ。自分で納得できないと、彼の隣になんか立てそうにない。


「なあエド、ひとつだけ聞いていいカ」
「なに」
「おまえ、奴に会いたいんだよナ?」
「…おう」


 会いたい。もちろん会いたい。
 時折どうしようもなく想いは募るのだ。それは雨の日だったり、かの人の命日だったり、彼の顔を新聞で見つけてしまったときだったり。
 けれどもまだ駄目だ。彼に会ったら満足してしまいそうな自分がいるから。歩みを止めてしまうそうな自分がいるから。そんなのは嫌だ、自分も彼も求めない。進むことをやめた自分にはなんの価値もなくなることくらい自覚があるのだ。
 だからまだ会わない。彼の隣で突っ走れる自信が持てるまで会わない。





「あ、そうダエド、俺、次期皇帝が決定したゾ」
「え、うっそマジで?おめでと、つかこんなとこいていいのかよ」
「なに、親父殿もあと数年は持ちこたえそうだカラ、今のうちにアメストリスとの国交整備をしておくサ」
「あっそ」
「…もうちょっとこう派手に反応してくれないのカ?」
「歴史書にちゃんと俺の名前書けよ」
「冷たい親友だナ…」
「誰が親友だよ」






 なあ、あんたが俺を待っててくれるかなんてわかんないけどさ。
 もしかしたらもう俺のことなんか忘れてるかもしれないけどさ。
 でも、もしあんたが今でも俺のことをちょっとでも待ち望む気持ちがあるなら、
 お願いだからもうちょっとだけ、俺に時間をくれよ。

 あんたの隣で走る力を手にしたら、きっと俺から会いに行くから。