その通りだと思った。だから何も言えなかった。
『都市同盟を救うのは都市同盟の人間の手で行うべきだ。俺はそう思っている』
そう、ジェスに宣言されたのが昼間のこと。夕暮れのグスタフ市長の家の屋上で、アスは眼下に広がるティントの街を眺めていた。
鉱山の街。アスの知らない街。知らない人々が住んでいる街。
この街も、都市同盟も、実際のところアスはよく知らない。デュナン軍のリーダーを引き受けたのは、ルカを倒して幼馴染を取り戻すため、それだけだ。都市同盟を救おうなどと考えて引き受けた訳ではない。正直に言って、同盟軍の人々よりもジョウイひとりの命の方が、アスには重い。
だから、ジェスの言うことは正しいのだと思う。少なくとも、都市同盟を救うのは、アスではない。
「どうしてみんな、わかってくれないかなあ…」
狂皇ルカは倒した。それでアスの役目は終わりではないのか。何故、まだ戦わなければならないのか。
相手はジョウイなのに。
もう戦いたくないと叫びたかった。誰か代わってくれと泣きたかった。
「僕は、ナナミとジョウイしかいらないのに…」
吹き付ける風に小さくくしゃみをした。ふわりと肩にコートが掛けられる。
「風邪を引くよ。そろそろ中に入ったら?」
優しく告げたのは、頼み込んでついてきてもらった隣国の英雄だった。いつから屋上にいたのだろうか。
「あんまり長居してるとナナミが心配するよ」
「はい……。他のみんなは、どこに?」
「ビクトールはまだ市長たちと話してるんじゃないかな。ルックとシーナはとっくに部屋に入ってる」
「そうですか…。付き合わせちゃったみたいでスミマセン、マクドールさん」
「僕は構わないよ」
言いながら、彼はアスの隣で手すりに凭れる。遠くを見据えるその瞳に、思わずアスは疑問を口にしていた。
「マクドールさんは、どうしてリーダーになったんですか?」
フェンは、視線をリアスに戻して微笑んだ。
「いくつかの要因が重なって、と言っておこうか。でもねアス、ひとつ確実なのは、僕の理由は決して君の理由にはならないってことかな」
「でも…」
尚も言い募ろうとするアスを、彼は唇に人差し指を立てることで制した。
「それを君と一緒に考えるべきなのは僕じゃない。だって、僕は同盟軍の人間じゃあないしね」
そう言ってフェンは階段に向かって歩き出した。それからアスを振り返る。
「さ、戻ろうアス。ナナミが心配してるよ」
はい、とアスは答えた。それは確かだった。
ナナミの笑顔を、もうどのくらい見ていないだろう。