「ここで本当に合ってるのかい?」
石造りの街、響く鍛冶の音。職人の街、という雰囲気溢れるティントの街を宿屋の窓からぐるりと眺める。そうだ、と背後からの低い声に、クイーンは肩を竦めて見せた。
「静かなもんじゃねえか。とても、国を引っかき回す意志なんて持ってはいなさそうなもんだけどな」
「慎めエース。人が見かけに寄らないのと同じように、街も見かけに寄らないものだ」
「へえへえ。じじいは経験豊富ですからねっと」
「……窓を閉めろ、クイーン。聞かれて良い話ではない」
「了解、大将」
からりと窓を閉め、クイーンはそのまま窓にもたれ掛かる。部屋の椅子に座るのはゲドのみで、ジョーカーとエースはベッドに腰掛けている。
「まずは情報を集める。エース、クイーン、おまえたちは交互に武器を鍛冶にでも出して長居してもおかしくない理由を作っておけ」
「了解」
「間違いがないようなら俺はこの街のトップに会ってくる。北の開戦まではまだ時間があるから先走るな」
「イエス、サー。……ところでゲド、あんたどうやってこの街の情報を掴んだんだい?」
ハイランド奪還戦争を成功させよ。それが現在自分たちハルモニア辺境軍12小隊が受けている任務だった。未だ開戦こそしていないものの、南東部辺境軍のサドラムがジル・ブライトを拘束した以上戦火は必至である。既にハルモニア軍部では公然の事実であるが、本国は静観の体勢を取っていた。やりたいなら勝手にやれば良い、本国は関与しない――だが、ハルモニアの名を冠する以上敗北は許さない。だからこその小隊への密命である。
同様の任務を受けた幾つかの隊がハイイースト地方へ向かう中、12小隊のリーダーたるゲドが向かったのは西だった。首は捻れど、ボスの決定に否を唱えるつもりはない。ティントへの道中彼が開かしたのは、この街の開戦準備――正しくは、独立準備であった。デュナンの武器庫であるこの街の独立戦争を、ハイランド奪還戦争と連動させる。それがゲドが告げた作戦だ。
「……昔の知人のつてだ」
「まーたそれかい! ま、いいさ。あんたのそのツテが外れたことはないんだしね」
「働かせて頂きますよ。路銀も減ってきたしなあ……」
「ホレ、モンスターから奪った道具じゃ。換金してこいエース。わしは先に酒場に行っている」
「また飲むのかよじじい! 金がねえって言ってんのに」
「バカを言うな、酒場は最も重要な情報源じゃ。腕の良い鍛冶屋の情報を集めておいてやろう。街のボス御用達の鍛冶屋の情報も、な」
「ったくよお……。酒はほどほどにしとけよ!」
肩を怒らせながら部屋を出ていくエースの背中を眺め、クイーンは苦笑する。なんだかんだ言って、良いコンビには違いない。
「さて、じゃああたしたちも行こうか。良い酒場は見繕ってあるんだろうね、ジョーカー」
「任せとけ。行くぞ、ゲド」
「ああ」
男二人を追い出すようにして扉を開ける。廊下の窓から見上げた空はもう、夜が始まろうとしていた。