「……駄目かな、飛燕天地斬! とか……」
「キリルくんがやるなら僕も便乗するよ。諸刃ってみる」
「前から思ってたんだけど、その技改名しない? ちっとも諸刃じゃないよ」
「確かにそうなんだけどキリルくん、もう150年も使ってるもんだから、今更改名すると、多分噛む」
「ああ……それはかっこ悪いね……」
「だよね……『150年も使っておいて噛んでるの? ダサ!』とか思われるのは勘弁願いたい」
「あ、でも150年越しの知り合いって僕くらいじゃない? 僕しかダサいって思わないんだから別によくない?」
「……キリルくん、そこは『僕はダサいって思わないよ』って言ってくれるところじゃないのか……」
潜入と呼ぶにはあまりにも賑やかに、それでも一応声は潜めながらレイはキリルの後をついていく。クロムの村の片隅にある倉庫は、切り札が隠されているにはあまりに杜撰な警備だった。入り口でキリルが警備兵にクロアニの粉を嗅がせてからというもの、他には人っ子ひとり見当たらない。
「ていうか僕はキリルくんが眠り薬なんて持ち歩いてることにびっくりだよ……」
「まあ、いろいろとね」
「みんなの優しいキリルさまも汚れたなあ……」
「なにそれ。……あ、これかな?」
周囲のものに比べるといくらか厳重に封のしてある木箱を見付け、キリルは慣れた手つきで開けに掛かる。ほどなくして現れたそれは、レイの記憶にある紋章砲そのものだった。
「まだ残ってるんだなあ……」
「リノさんのせいでもあるんだからね?」
「あの人のやったことについて、僕に責任を問われても困る」
「別にレイに責任は問わないけど……。砲弾は本物じゃないね。生成されなくなってから長いし、流石にもう流通してないか……。何かを見ながら作ったのかな。このあたりにはまだ資料が残ってるのかも……」
そう呟きながら、キリルは器用に紋章砲に細工を施していく。壊さないのかと問えば、王様に迷惑が掛かるからと返された。この国に滞在する目的を果たしたにも関わらず、どうやら長居をする気であるらしい。
「珍しいね。キリルくんが紋章砲を見付けたあとも留まるの」
「うん……。ちょっと、気になる子がいて」
「……恋?」
「違うよ馬鹿。こう……シメオンさん的な意味で」
どういう意味だろう、とレイは思ったが聞き返しはしなかった。より一層わかりにくい説明しか返ってこないだろうと思われたからだ。
「それに、君が来てくれるなら会わせたい人もいるし」
「僕に?」
きょとんと瞬くレイに、そう君に、とキリルは笑う。
「よし、こんなもんかな」
「こんなんでいいの?」
「いや、よくはないんだけどね。少なくとも、彼らが使おうと思ったように使うことはできないはずだから。あとは頃合いを見て壊しに来るよ」
「……キリルくんて、なんだかんだ実力行使派だよなあ……」
「あはは。今さら何言ってるの」
じゃあ帰ろうか、とキリルが発したその台詞に目を見開く。キリルにとってデュナンは帰るところなのか、と感慨深げに頷けば、ワンテンポ遅れて照れくさそうにキリルが笑った。
「つい、ね。同じ国に2年もいるの、久しぶりなものだから」
「良いことなんじゃないのか。帰る場所が増えるのは」
「うん……そうかもね」
紋章砲を元通り木箱にしまい、身支度を整えたキリルが立ち上がる。行こうか、と告げる彼に頷き、レイはちらりと木箱を振り返ってから後を追った。