「随分と馬鹿にしてくれるじゃないか」
 レイと二人、ティントから帰城したキリルを城門で迎えたのは不機嫌な風使いだった。これは正体が割れたかな、とひやりとするも、いっそ都合が良いかもしれないと考え直す。早晩、彼とは話を付けねばならないのだ。
「あんたがキリルなんだろ。万にひとつ、ただの同名ってことも考えてたけど、そこのゲテモノと知り合いなら間違いないね。あんたがベルグマンの主だろう」
 突っ込みポイントの多すぎる台詞である。
「え、ちょ……」
 レイと知り合い? ゲテモノって呼んでるの? というかベルグマンの主なんて呼ばれ方初めてされたよ……! と内心で叫ぶキリルをよそに、隣のレイが少年を眺めて淡々と答えた。
「覚えのある気配がすると思ったら、君か風使い。久し振りだな」
「あんたはどうでも良い。僕の用はそっちの赤服だ」
「……だってさキリルくん」
「え、あ、うん……?」
 未だ混乱しつつも知り合いかと尋ねたキリルに、レイは少し首を捻る。
「まあ……。墓参りの約束をした仲かな」
「してない」
 より一層不機嫌になった少年を気にも留めず、キリルくん、とレイは宥めるように呼ぶ。
「君が気にしてた少年ってのが彼のことなら仕方ないよ。この風使いは僕の『仲間』な上に、運命の管理人とやらの弟子らしい」
「え……?」
「年は知らないけどな」
「あんたらジジイと一緒にしないでくれる?」
「……という台詞が出てくるくらいの年だそうだ」
 肩を竦めるレイに、ルックが苛立ちを露わにして己の髪を払う。
「もういいよ、埒が明かない。アスが止めるから待っててやったけど、僕が自分でティントに行ってくる」
「え、あ、待ってルックくん!」
「何。説明するなら早くして」
「……君は、紋章砲の何を知りたいの?」
「この間も言っただろ。紋章砲と召喚魔法の関連だよ」
「ごめん、僕の聞き方が悪かった。……それを知って、君は何をしたいの?」
 ルックは僅か、怯んだように口を閉ざした。しばらく迷い、辺りの気配を探ってから諦めたように声に出す。
「……真の紋章を持ったまま、異世界に渡る方法を探している」
 隣でレイが怪訝な顔をし、それから何かを思い出すかのように視線を宙に向けた。それには構わずキリルはまっすぐにルックを見据えた。
「……結論から言うと、それはもうできないよ」
「何故さ」
「説明するよ。だから、いつもの書庫で待っててくれるかな。まずは王様に報告してくるから」
 そう言えば、少年は不承不承頷いた。レイもルックくんと一緒にいて、と告げれば、わかった、と上の空で返事が返ってくる。その様子に首を傾げながらも、キリルは王のもとへ歩を進める。
 レイが零した、霧の船、という言葉の意味をキリルは知らない。